≪沖縄・奄美スローフード協会より重要なお知らせ≫
さて、現在名古屋でCOP10が開催されておりますが、スローフードイタリアと
スローフードジャパンが共同でスローフードとして意見表明を提出いたしましたので
ここに、ご報告申し上げます。
10月19日にスローフードジャパン若生会長が農林水産省と環境省に出向き、
COP10の議長をつとめる松本龍環境大臣と鹿野道彦農林水産大臣に
添付の資料を提出しました。
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作物や家畜の遺伝的多様性や種の多様性を保全することの重要性を緊急アピール!
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特定非営利活動法人スローフードジャパン
今回のCOP10への意見表明
「生物多様性をめぐる状況と課題-種(たね)と味の多様性を守ることの重要性-」は次の通り。
1.生物多様性をめぐる状況と議論について
(1)生物多様性をめぐる危機的状況と生物多様性条約第10回締約国会議の意義
(2)COP10などを契機とした日本国政府による広報活動と生物多様性を重視した農業への転換
(3)野生種にとどまる生物多様性の対象の拡大と作物や家畜の遺伝的多様性や種の多様性を保全することの重要性
(4)ジーンバンクの限界と生産者、さらには市民参加による作物および家畜の遺伝資源管理の必要性
2.農業における生物多様性をめぐる課題
生物多様性をめぐる状況と課題-種(たね)と味の多様性を守ることの重要性-
農業における生物多様性の再生に向けて(以下に文章を引用します)
今回の取りまとめには、生物多様性プロジェクトチームの川手氏と黒川氏が
ご尽力くださいました。
( 農業における生物多様性の再生に向けて)
現在の農業において、危機的に感じるのは、種が生産者の手から離れてしまっていることです。
生産者の本来の姿は、種を自分で採ることを基本としながら、その土地や風土にあった作物を育て、守り、伝えていくことだと思います。
しかし、わが国では、特に高度経済成長期以降、生産性や経済性を過度に追求した結果、生産者は自ら種を採ることをやめ、毎年、種苗会社など外部から種を買うのが当たり前のことになってしまいました。
その結果、例えばダイコンが生産性に優れた青首の系統に急速に画一化し、各地にあった多種多彩な地ダイコンが消滅の危機に瀕するなど、生きた文化財である伝統品種・地方品種を次々に失っていき、作物の遺伝的多様性をほぼ喪失してしまっているように思われます。こうした作物の遺伝的多様性の急速な減少は、第1に近親交配による繁殖能力の低下につながり、やがては種の絶滅につながる可能性をもたらしています。第2に1840年代において主食であるシャガイモの遺伝的画一化が招いたアイルランドの大飢饉のように、一度に特定の病虫害などにやられて食糧危機を招く可能性をもたらしています。さらにいえば、今日の作物の遺伝的画一化は、多くのケースで1840年代のアイルランドのジャガイモ以上の画一化が進んでいることを忘れてはなりません。第3に伝統品種・地方品種に支えられた地域の個性的で多彩な食文化の消滅の危機をもたらしています。
さらに、生態系の多様性に関しては、生産性や経済性の過度の重視に基づく近代農業の下では、殺虫剤や除草剤などの様々な農薬が開発・使用され、作物以外の植物や昆虫、微生物は全て排除の対象となり、田んぼや畑が農作物と同時に生み出している多種多彩な動植物が存在の機会を失い、その多くの動植物が絶滅危惧種に指定されています。
作物の遺伝的多様性や種の多様性の低下に対しては、1960年代以降、作物遺伝資源の収集・保存を行うジーンバンク(遺伝子銀行)が各国に設立されてきました。たしかに、ジーンバンクによる対応は、将来の利用に資するために遺伝資源を集めるということ、つまり、遺伝的変異の喪失を防ぐという点では一定の効果をあげているといえます。
しかし、ジーンバンクによる保全は、生態系の中の遺伝資源の喪失には有効な手立てにはなっていません。特に国際機関などが集めた遺伝資源は国境を越えて運ばれたため、遺伝資源を持ち出された発展途上国からは厳しい批判が寄せられています。そもそも、ジーンバンクに保全された遺伝資源の利用は主として研究者であり、なくなりつつある遺伝的な多様性を保全するというよりも、むしろ遺伝資源を将来の品種改良の素材に使うことが目的であり、生態系にすむ人びとには直接の利益はありません。
何よりも深刻と思うのは、以上のような農業における生物多様性が急速に失われていることとそのことがもたらす危機的状況について大半の人が知らないことです。
こうした状況の中で、私たちは、スローフード運動において、農業における生物多様性の喪失の状況と大切さを広く知らしめ、種を守る取り組みを進めて農業における生物多様性を再生する取り組みの推進を呼びかけたいと思います。
そのためには、第1に種を守る基盤を再生するため、生産者の自家採種を基本としつつ、種を守っている人たちにスポットをあて、地域で守るべき伝統品種・地方品種のリストアップを行い、復活の取り組みを進めること、第2にわが国における種を守るためのネットワークづくりを行い、やがて、国を越えた地球規模での種を守るネットワークに発展するように、相互に交流し、支え合うこと、第3に伝統品種・地方品種の加工や料理の方法を掘り起こし、見直しつつ、広く伝統品種や地方品種の存在意義についての理解者を増やす取り組みを進めること、第4にこうした取り組みに積極的に都市生活者や消費者が参加することが必要と思われます。
種を採り、守っていくという作業は実際には大変です。とはいえ、種を採って作物を育てることで作物への思いが深くなります。とりわけ、種から始まって、収穫し、花が咲きふたたび種に至るという作物の一生を見ていくことで、いままで見えなかった個性や特性、そして少々の欠点などが感じられるようになります。種を自ら守っていくなかで、その作物の個性を知ってより生かすことができます。自家採種に取り組み、深く種と向き合うようになると、稲穂やダイコン、大豆の1本1本に目を配るようになり、農業の面白さや奥深さをより一層感じられるようになります。そうした中で、突然変異株が発見され、地域の新しい品種が生み出されてきました。種採りから始める作物づくりは、作物と会話ができ、想いが形にできる農業だと信じています。種が繰り返し繰り返し田んぼや畑で新しいいのちを受けるたびに、その風土に合ったいのち豊かな姿に変わっていきます。そうして生まれた種をあやし、作物の花と語るなかで、心をときめかされ感動すること、そして心から感動した気持ちを農業の場でどう表現できるのかということは、とても大切なことではないでしょうか。作物の花や種から、たくさんのことを学ぶことができます。
スローフードにおける取り組みとしては、すでに「味の箱舟」プロジェクトがありますが、このプロジェクトの充実を図りつつ、個々のアルカやプレシディオの生産基盤を強化し、アルカやプレシディオの生産者が地域を越えて相互に連帯を図る必要があると思います。また、アルカやプレシディオ以外に地域で守り育むべき作目や品種のリストアップを行い、復活の取り組みを進めることが必要と思います。
こうした取り組みは、スローフード運動でしかできないと思います。私たちは、わが国で初のテッラ・マードレを開催するにあたり、以上の取り組みを広く呼びかけたいと思います。
是非、一緒に、種を守る取り組みを進め、多様で多彩ないのちのにぎわいを取り戻していきましょう。
2009年10月23日
呼びかけ人代表:岩崎政利、遠藤孝太郎、長友姫世、秋元摩那、黒川陽子、川手督也
今回のこの資料の取りまとめには、生物多様性プロジェクトチームの川手氏と黒川氏が
ご尽力くださいました。ありがとうございます。